マインクラフトで英語!

聞いてしゃべれて読めて書ける、最もシンプルな方法と本質論。

B.Q.R. J-77 『たかが英語!』

メディアで楽天の英語化プロジェクトが報じられると、各方面から反応が伝えられるようになった。賛否両論あったが、厳しい意見の中には、ある大手自動車メーカー社長による次のような趣旨の発言を報じたものもあった。 

「従業員がほとんど日本人で、しかも日本にある会社なのに、英語しか使わないなんて愚かしい」(『たかが英語!』三木谷浩 著 ーp.2)

 

  楽天が英語を社内公用語化するっていう話がそういえばあったなあと思って、ちょっとこの本を手に取って(っていうかまあどっちかっていうとタイトルにつられたんだけど)あれ今どうなってるんだろうと思って「英語+社内公用語」で検索してみたら、その楽天の表明を皮切りに、日本の大手企業=ファーストリテイリング、アサヒビール、シャープ、三井住友銀行、三井不動産、三菱商事、日本電産、武田薬品工業、ソフトバンク等々が「英語公用語化」っていうサイトがあってちょっと一瞬驚いた。

   ところが、いろいろ詳細を見てみると、その内実はなんて言うか「?」っていう感じで、なんだかいまいちよくわからなかった。ちょっとその英語を公用語化したらしい企業と中身を(少し簡略化して)列挙してみると......

 

  • ファーストリテイリング(2013年3月より社内英語公用語化。日本のオフィスであっても幹部レベルの会議や資料は全て英語に統一され、日本人に限らず中国人といった非英語圏の幹部や支店長クラスの人には英語研修を実施)
  • アサヒビール(CASECによる社員の英語力把握など英語力向上の施策を実施)
  • シャープ(鴻海精密工業の傘下に置かれ、英語の社内公用語化が加速)
  • 三井住友銀行(総合職全行員にTOEIC800点以上を要請)
  • 三井不動産(総合職全員を対象にTOEIC730点以上を目標点数として設定)
  • 三菱商事(管理職への昇格要件の1つとしてTOEIC730点以上の基準を設置)
  • 日立製作所(2012年4月の新卒採用より、事務系は全員、技術系も半数を、将来、海外赴任することを前提に採用。2012年度までに累計2000人を海外経験させることを発表)
  • 日本電産(2015年から課長代理以上の管理職への方針に外国語一か国語以上、2020年から部長級への昇進に二か国語以上の習得を条件とする)
  • 武田薬品工業(新卒採用の応募条件TOEIC730点以上、英会話力をはかるT-Scaleを導入)
  • ソフトバンク(TOEICの点数に応じて一時金が一律支給)

   

  まあ、ざっとこんな感じになる。

  ネットの情報っていうのはそもそもあまりあてにならないっていうのは常識としても、こういう情報を基にして「英語公用語化企業」みたいに併記してあると「どうなってるんだ?」って感じにちょっと混乱しちゃうんだけど、はたして上に挙げたような企業って英語を公用語化した企業って言えるんだろうか? っていうか英語を公用語化するってそもそもなんなんだろう。この辺がなんだかよくわからないんだけど、まあ少なくとも、楽天がかつて(っていうか今も?)断行した「英語化プロジェクト」って、こういう「TOEIC何点以上目指すぞ~! お~!」とか「議事録、資料、報告書、全部英語にするぞ~! お~!」とか、そんなレベルのものじゃあなかった。この著書を読む限りでは、それはなんて言うか(サークル的同好会的体育会系レベルのノリじゃあなくて)、いわば全国制覇を目指す(ある意味狂気の)本気の部活動的体育会系集団そのものなのだ。なにしろ、この楽天の英語化プロジェクトの内容って、もう社員全員、英語を全く使わない部署であれなんであれ関係なくもう全員、いつでも、どこでも、だれとでも(たとえそれが私語であっても!)「社内では英語を使え」っていうんだからね。これは上記の企業の取り組みとは次元が違う。

  はっきり言えば、上に挙げたような「TOEIC何点以上目指すぞ~!」とか「議事録全部英語にするぞ~!」程度の社内英語化って必要ないんじゃないかと思う。むしろ、なんて言うか、こんな程度の社内英語化なら、従来通り日本語をベースに仕事して、必要に応じてプロの通訳や翻訳を雇って仕事したほうがはるかに効率がいいんじゃないだろうか?(TOEIC勉強したり、議事録訳したりしてる時間もったいなくないのかな?)。それについ最近、例の築地移転問題で、解体工事の入札がWTOのルールに違反してる可能性=英語での公告がなかった、っていうのが取り上げられてたけど、まああんな感じに、どうやら「日本語」っていうのは、国内に海外企業が参入するのを防いでくれる「障壁」として働くみたいだからね。なんか中途半端に「英語化」するくらいなら、やらないほうがましだろう。

  ところがだ。実は上で引用した "大手自動車メーカー社長" って、どうやらホンダの伊東孝紳前社長のことらしいんだけど、2010年に楽天がその狂気の英語社内公用語化を表明した時、記者から「ホンダも社内公用語を英語にすべきでは」って問われて、「バカな話」って言って一笑に付したそのホンダが去年、なんと英語の社内公用語化に方針を転換していた。

ホンダは29日、2020年を目標に社内の公用語を英語にすると発表した。地域をまたいだ会議やグローバルで共有する文書の作成に英語を用いる。言語を統一して地域間のコミュニケーションを密にし、グローバル化を推進する。楽天などの新興企業に続き、老舗の大手企業でも公用語を英語に切り替える動きが広がってきた。(日経新聞2015/6/29)

  上で引用した著書の『たかが英語』には、楽天の社内英語公用語化の理由として、国内マーケットの縮小(ゴールドマン・サックスのレポートによれば、日本のGDP比率は2050年までに3%まで落ち込むらしい)とか、翻訳のスピード(インターネットの普及によって情報の伝達速度が上がった分、翻訳のタイムラグが致命的になりうる)とか、交渉における信頼関係の醸成(たとえ通訳がついたとしても、直接のコミュニケーションができないと、どうしても疎外感が生まれる)とか、まあその英語公用語化の理由が色々見て取れるんだけど、要するに、楽天に続いて次々と大手企業が英語の公用語化(?)に乗り出して、「バカな話」って言って取り合わなかったホンダもその方針を切り替えざるを得なかったのには、こういう「国内マーケットの縮小」「翻訳、交渉のスピード」っていう理由と同時に、たぶん何かもっと喫緊の、やむにやまれない事情みたいなのがあるのかもしれないんだけど、だとしたら、そんな「TOEIC何点以上取るぞ~!」とか「議事録全部英語にするぞ~!」みたいな悠長なことやってて大丈夫なんだろうか。正直僕はこういう大手企業みたいなところで働いたことがないから、日本の企業が今(っていうか今さら?)英語の社内公用語化に舵を切ってる(っていうか切らざるを得ない?)内情がいまいち実感としてつかめないところがあるんだけど、なんかそんな中途半端な英語公用語化「もどき」みたいなことやってると、この先グローバル化の波を泳ぎ切れずに溺死しちゃうんじゃないかと(まあかなり勝手に)心配してしまう。

  さて、ちょっと話を変えて。楽天は英語を社内公用語化した2010年以降、東南アジア(=中国、台湾、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ)と、ヨーロッパ(=イギリス、ドイツ、フランス、スペイン、オーストリア)を中心に、かなり速いスピードで海外展開を進めることに成功したらしい。だけど、実は今年に入ってから突然、海外のマーケットプレイスを次々と閉鎖し始めて、今現在、楽天のサイトで確認できる海外のオンラインショップは、アメリカ、ドイツ、フランス、台湾、ブラジルの5か国のみになっている。さらに、今年2月に発表された国際会計基準による通期決算が8期ぶりの減益だったみたいなんだけど、それは主に海外事業(=ECサイト運営会社プライム・ミニスターと電子書籍企業Kobo)のいわゆる「のれん減損」が大きくて、それが減損額のおよそ6割を占めていたという。

  この楽天の海外事業閉鎖、減損っていう状況を見て「英語公用語化なんてことやってるからだ」っていうような趣旨の記事をネットでちらほら見かけるんだけど、はたして本当にそうだろうか?

  楽天の海外事業がここにきて失速し始めている(ビジネス的な)要因は、僕のような素人にわかろうはずがないんだけど(例えば、外部環境の変化=2013年以降急進した円安やら、ここ数年の原油安やら、イギリスのユーロ離脱やら、あるいはそもそも海外展開した地域での文化理解の不足やら慣習の違い、とかっていう初歩的なところでつまずいた可能性だとか、まあ色々あるのかもしれないんだけど)、おそらく(って言って素人なりに推測するに)その、そもそもの原因は、「遅すぎた」ってとこにあるんじゃないかって思う。

  海外の大手ECっていえば、AmazonやeBayなんかのアメリカ企業が圧倒的に強いんだろうけど、それに肩を並べて成長してるのが中国のAlibabaだ。今年Alibabaは楽天とは逆に、東南アジア最大手のEC企業LAZADAを買収して、さらにその規模を拡大しつつあるけど、楽天とこのAlibabaの海外展開の明暗を分けた一つの理由は、おそらく「決済システム」の違いだ。

  このAlibabaが採用してる決済システムって「エスクローサービス」って言われる方式で、まあ要するに、日本では(まだ今の所)クレジットカード会社と銀行が主に担ってる資金決済を、Alibaba(のグループ会社=Alipay)が直接行っていて(詳しくは調べてみてほしいんだけど)この方式だと手数料だとか不正利用の回避だとか配送の確実性の点でかなり優れたシステムになっている。

  で、(なんか英語の話からちょっと離れつつあるけど)この「エスクローサービス」、日本では銀行法や信託業法の関係で、以前は基本的に銀行しか行うことができなかったらしいんだけど、2012年に資金決済法なるものが施行されて、ようやく銀行以外の事業者も参入しやすくなったらしい(とはいえ、まだいろいろ規制があって、いまだに問題点があるみたいなんだけど)。

  おそらく想像するに、楽天からしてみれば、こんなの「遅すぎる」ってとこだったんじゃないだろうか。つまり、もっと早くこの規制が緩和されていて、もっと早くAlipayみたいな独自の「エスクローサービス」型決済システムを確立できていたら、まあAlibabaを抜くとまではいかないまでも、少なくともこんなふうに海外事業を次々と閉鎖せずに、大手EC企業と肩を並べながら事業を継続できたんじゃあないだろうか(特に海外の配送システムやら支払い環境の状況は、日本のそれと比べると相当によくないらしいし、そういう場合にこの種の決済システムは必要不可欠になってくる)。

  で、ちょっと話を戻して。

  僕は上記の英語公用語化(もどき)をやってるらしい大手企業の名前を見た時に、(まあ総合商社は別としても)なんでインターネット関連じゃない企業もこぞって「TOEIC何点以上!」みたいなことやってるのかってちょっと不思議だったんだけど、たとえばこういう銀行業務一つとっても、その事業って(当たり前なんだけど)ありとあらゆる業種と密接に結びついてて、相互に何かしら影響を与え合っている。だから、このグローバル化の波を乗り越えようと思った時に、一企業だけでなんとかしようと思ってもとうてい乗り越えられるものじゃあないんだなとあらためて思って、まあなるほど製造業にせよ通信業にせよ金融業にせよ、今までのように「箱庭」的にある意味日本に守られてやっていけるわけじゃあないんだろうなと、ちょっとそう思って、それで結局「うちも英語、とりあえずなんかやっておきましょう」とか、「まあひとまずTOEIC、社員に受けさせておきましょうか」みたいになってきてるんじゃあないかと、そんなふうに思ったんだけど、なんかそう思うとますます「そんなことやってて大丈夫か?」と、心配になってきてしまう。もっと言えば「そんな程度のことなら、やめたほうがいい」と、そう思うんだよね。

  そして(というかだから)、この楽天っていう企業の海外事業閉鎖、減損っていう状況を見て「英語を公用語化なんてことやってるからだ」っていうような趣旨の記事をネットでちらほら見ると、(ある意味逆に)はたしてそうだろうかと思わざるを得ない。思うに(他の企業と違って)楽天の場合、「英語を公用語化なんてことやってるからそんなことになるんだ」っていうよりも、むしろ「英語公用語化みたいなことをせざるを得なかったらかこそ、こんなことになったんだ」って言ったほうが正確なんじゃないだろうかって思う。つまり、楽天減速の原因は(すでに書いたように外部的にも内部的にもその要因はいろいろあるにしても)やっぱりこの狂気の英語化プロジェクトも、その要因の一端を担ってたんだろうなとは思うんだけど、でも三木谷社長にしてみれば、この英語化プロジェクトは、「こんなもの、教育がやる仕事だろう」って言いたい所だったんじゃないだろうか。「なんでうちでやんなきゃなんないんだよ」と。そして、いまさらその英語教育を、「小学校から必修化・教科化」とか、「使えない英語から使える英語に改革」なんて言っても、すでに見た「資金決済法の施行」なんかと同様、「もう遅すぎる」と......。

  え~っと、なんかまただらだらと記事が長くなってきちゃったな。

  まあ、この『たかが英語』には、その英語教育に関しても、面白い(っていうよりかなり辛辣な)意見が見られるし、まあその辺りはまた次回、いろいろ引用しつつ書いてみよう。

 

たかが英語!

たかが英語!